中小・ベンチャー企業の皆様方へ

ITサービスを特許権の保護対象とするために必要なこととは?

 

日常生活でのメールのやりとりから始まって、スマートフォン用の様々なアプリの利用や、ネットワークサービス、業務システムなど、現在はITサービスが生活や仕事に深くかかわっています。

 

このようなITサービスを提供するためには、インターネットやネットワークに関する様々な技術が必要になります。
今までにないITサービスを武器として起業するITベンチャーにとっては、このようなお宝技術が簡単に模倣されてしまってはたまりません。

 

そこで、検討すべきは、新しく開発した技術を模倣から守る手法の一つである特許権です。

 

日本では、ソフトウエアが発明として特許権の保護対象になるためには、特許庁が特許権の審査で使用する審査基準によれば、ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されていることが必要とされています。

 

このようなITサービスでの特許権の例としては、楽天株式会社による楽天ビジネスの関連特許権である特許第4588169号(仲介装置および仲介方法)や、凸版印刷株式会社による地図のマピオンの関連特許権である特許第2756483号(広告情報の供給方法およびその登録方法)等があります。

 

ここで、「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」とは、ソフトウエアがコンピュータに読み込まれることにより、ソフトウエアとコンピュータ等のハードウエア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置(機械)又はその動作方法が構築されることをいいます。

 

そして、このような使用目的に応じた特有の情報処理装置(機械)又はその動作方法は「自然法則を利用した技術的思想の創作」ということができるから、特許権の保護対象となります。

 

つまり、機器等(例:炊飯器、洗濯機、エンジン、ハードディスク装置)に対する制御又は制御に伴う処理を具体的に行うものや、対象の物理的性質又は技術的性質(例:エンジン回転数、圧力、温度)に基づく情報処理を具体的に行うものに当たる場合です。

 

 

特許の対象となるITサービスとは?

 

例えば、インターネット等の通信ネットワークを介して配信される記事をパソコンに保存する方法について考えてみます。

 

このアイデアが、パソコンの表示画面に表示された記事の文章中に所定のキーワードが存在するか否かを単にユーザが判断するというものであれば、通信ネットワークを利用しているものの、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働して問題解決するわけではないので、特許権の保護対象とはなりません。

 

一方、インターネット等の通信ネットワークを介して配信される記事を受信し、パソコンの表示画面に表示された記事の文章中に所定のキーワードが存在するかどうかをパソコン自身が別途記憶されている所定のキーワードとのマッチングを行って、キーワードが文章中に存在するか否かを判断するというものであれば、ソフトウエアとハードウエアとの働きによって問題解決していることになり、特許権による保護対象となります。

 

つまり、特許権の保護対象となるためには、「インターネット」、「電子メール」といった手段を使用するものであっても、これら手段を単に道具として用いる人為的取決めそのものではなく、ハードウエア資源であるコンピュータを用いて具体的に実現した情報処理システムの動作方法であることが必要になります。

 

あとは、機械・電気製品や化学製品と同じように、新しいものであったり、似たような例を単純に組み合わせただけのようなものではなかったりすれば、特許権を取得することができます。

 

 

ITサービスで特許権を取得したほうがいい場合とは?

 

特許権は、勝手な模倣から発明を保護するための手段の一つなので、もし、取り扱っているITサービスが特許権の保護対象になりそうだ、ということであれば、特許制度の利用を考えてみるべきです。

 

では、特許権を取得すべきかどうか検討すべき事項には他にどんなものがあるのでしょうか。

 

まずは、費用対効果です。

 

模倣されることによって失われる利益と、特許権を取得するための費用やそれを維持するための費用、いざ模倣されたときに対処するための費用とを比較検討します。

 

失われる利益のほうが多いようであれば、特許権の取得をすべきことになります。

 

また、特許権の保護対象となり得ても、特許権の取得可能性があるかどうか、も判断材料になります。

 

業界のスタンダードを目指せるような基本的な発明であれば、応用がいくらでもできますので、特許権を取得すべき判断材料になります。
ライセンスにより自社だけでなく他社の力も借りながら市場を広げていくこともできますね。

 

一方、目新しさがなかったり、誰かが発明した内容を単純に組み合わせるだけのものだったりすれば、せっかく特許出願しても特許権を取得することができず、ノウハウだけ開示して終わってしまいます。

 

 

特許権を取得したら気を付けるべきこととは?

 

また、特許権を取得した後のことまで考えてみる必要があります。

 

特許権は国毎に発生しますので、いくら日本の特許権を取得していても、米国や中国で特許権の恩恵をうけることはできません。そのためには、米国や中国でそれぞれ特許権を取得する必要があります。

 

そして取得した後は、模倣の有無をウォッチし続ける必要があります。

 

せっかく特許権を取得しても模倣を放置してしまえばなめられてしまいます。外国であっても、前回のコラムでご紹介したイーパーセル株式会社のように、模倣に対しては毅然とした態度をとることによって、存在感を高めることができます。

 

特許権は取得するにも維持するにも費用がかかります。
でも、取得することによって、様々な抑止効果を得ることができます。

 

特許権を取得するかどうかは、その発明を公開する前に決めなければならない難しさがありますが、特許権の取得を目指したほうがいいのかどうか、というのは経営判断の一つでもあります。将来の投資としてご検討してみてはいかがでしょうか。